ホームへ

富津のフンチ (2015年5月4日)

 "フンチ"とは、ネコハエトリの雄。内房総の富津地区には、このクモの遊びが江戸時代からあったと云われている。さながら人間の相撲のように豆粒ほどのクモが前脚を振りかざし、四つに組合う姿を、千葉県房総地方の海と山の生きものたちの生態や、浜の人々の生活を記録した白土三平は『フィールド・ノート』で、人を魅了させ感動させる世界と表現した。白土三平によれば、1983年頃、浜の男どもは、コノシロが大漁となり、キロあたり10円以下に下がれば、時化でもないのに漁を休み、ザルとマッチの空き箱を持って山へ出かける。笹やぶ、茶のしげみ、イバラの中…。気に入った何匹かのクモをマッチ箱に入れると、ニコニコしながら浜へ帰ってくるのである。そして、浜に着くとすぐにケンカグモの試合が始る。この試合は数分間にも及び、逃げ出した方が負け…。クモの闘いに一喜一憂し、浜の漁師が子どもになるのだ。

 さて、ゴールデン・ウィークの中日、1,000人以上の観衆が会場の八坂神社境内を埋め尽くした。富津フンチ愛好会による「日本三大くも合戦・第17代横綱決定戦」は、参加者約90名。この一般参加と子どもの部は、一人一匹を出場させてのトーナメント戦である。参加者は皆、出場させるクモに加えて数匹のクモを持ち寄るのだから、何と多くのネコハエトリがこの地に生息しているのだろう。大きいクモは、強い。ネコハエトリの雄は、体長7〜13 mmとされているが、出場クモの中には、15 mm以上あるのもいるのではないかと思われた。試合を待つ間、境内の樹の葉に水をかけ、この葉の上に自慢のクモを放して水を飲ませる参加者もいる。空き箱に取り置いたくだんのクモを水で濡れた葉上にそっと乗せてやる。クモを扱うその手さばきは見事であった。愛好会のメンバーは、前日に予選会を済ませている。参加者が多いので、試合時間を考慮して、との事である。自然と深くかかわるこの遊びは、見事にこの地で継承されていた。

富津のフンチ01

八坂神社を埋め尽くす観衆


富津のフンチ02

行司役の愛好会々長が、"フンチ"を土俵にだす。右には、ビデオカメラ。画面左上には、土俵に当る陽射しを遮る"フンチ"への愛の手が…。


富津のフンチ03

四つに組んだ"フンチ"


富津のフンチ04

箱の中で前脚を拡げ合う"フンチ"


富津のフンチ05

やったー!

もどる

ホームエッセイ里山の四季くものページくもの図鑑くものあみ研究のページ英語版リンク集沿革とプロフィール