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「ケツァル鳥の館」を読んで

 グアテマラのジャングルに繰り広げられる動物たちの誕生と成長、繁殖と死という生の営みをファンタジーの世界として描いたビルヒリオ・ロドリゲス・マカルの著した物語に、僕は深く感動した。

 群れから離れて生きる運命を背負ったハナグマのイツル。彼は、1000頭に1頭の割合で産まれてくる特別なハナグマ。「アンダ・ソロ」と呼ばれ、皆から畏敬され野性の生を謳歌するイツルは、この物語の語り部である老猟師ペドロ・クラーンの銃により、その生を終える。なんとも残酷な結末である。「自然の掟」である死と生を、著者が”緑の館”と表現するマヤのジャングルの光景の中に美しく描いた物語である。

 表題作のケツァール鳥はグアテマラの国鳥。彼らは、切手だけではなく、国旗にも図案化されているし、この国では通貨の単位も”ケツァール”である。人を避け海抜数千メートルの中央アメリカ高地の森林に棲む。自由の精神の象徴のケツァール鳥は、捕獲されると自由を奪われたことで悲嘆にくれて死んでしまうと言い伝えられている。世界でもっとも美しい鳥と言われるが、この”自由の精神”は迫害され、稀な鳥になってしまった。

 「マヤのジャングルは、世界の見方を教えてくれる多くの物語を秘めている。」とこの本の帯にあった。僕もそう思う。

ビルヒリオ・ロドリゲス・マカル著 児島桂子訳 山本容子画 「ケツァル鳥の館」 文芸春秋、

2001年,ISBN4-16-320510-1 C0097

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