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里山の初夏:揚羽蝶

 日本の紋章は、氏族・家と深いつながりをもっている。日本の場合、紋章とは家紋のことであるといってよいだろう。家紋は平安時代の中期以降、公家の衣服の有職紋様から発達したものと考えられている。時間をかけて洗練され、シンプルなデザインの極地ともいえる現在の形となった。

 一方、西欧の紋章は個人を識別するしるし(インシグニア)である。12世紀の騎士は、武術試合(トーナメント)に登録するために自分のインシグニアを試合を司る「家老」に提出しなければならなかった。そして、宮廷の「紋章官」は、試合の挑戦者を告げたり戦闘をとりしきったり、武術試合の一切をとりしきった。紋章官は、試合出場者のインシグニアをアナウンスした。これを紋章記述(ブレーゾンリー)と言うのだそうで、この言葉は吹奏するという意味のドイツ語”blasen”から来ているが、紋章官が観衆を注目させるためにトランペットを使ったからだと言われている。紋章記述は、特殊な用語で紋章を記述することだが、盾の紋地区分とその色の記述から始まる。色は、アージェント(銀)、オール(金)、グールズ(赤)、アジュール(青)、ペール(緑)、パープュール(紫)、サーブル(黒)の7色である。次いで、紋章記述は、主な中心の紋、補助紋、中心の紋の上にある紋、補助紋の上にある紋、二次的な紋、二次的な紋の上にある紋、血統のマーク、盾の縁と続く。まったくもって複雑な世界だ。かくして「紋章学」という学問まで生まれることとなるのである。

西欧の紋章 西欧の紋章に見られるのは、十字。動物ではライオン、馬、猪、熊、狼、山猫、雄羊、鹿。鳥では鷲、梟、ペリカン、他には魚や怪物のグリフィン。三つ葉のクローバーやイチゴの花やアザミ、樫の木などの植物。さらには、剣、城、鎖、錨、鍵などの人工物。という訳で、蝶は興味の対象外のようである。

揚羽蝶の家紋 一方、日本では、揚羽蝶を平家が家紋としたので有名だ。平安時代末期から鎌倉時代にかけては、平家以外でも蝶の家紋が流行した。悲しい最期をとげた平家への哀悼の念と、蝶にまつわる再生と復活の観念が働いているのかもしれない。

 さて、アゲハの学名は、Papilio xuthus LINNAEUSとリンネの命名だ。パピリオ(Papilio)属は、全世界に700種をふくむ大きな属だが、アゲハは、一名ナミアゲハとも呼ばれ、最も代表的な人里の種である。その綺麗な衣裳をデザイン化した家紋が生まれたのも、日本の虫めづる文化の賜物なのだ、と私は思う。

飛翔するアゲハ

優雅に飛翔する揚羽蝶

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